PLAY TRUE 2020

PLAY TRUE 2020

© Yuki Saito

Truth in Sport

いつもどんな時も自分自身に誠実であること

16歳の時からアスリートとして生きてきた私は、人生に必要な多くのことをスポーツから学びました。

誰でもスポーツを通してモチベーションについて学び、目標を設定することについて学びます。大局的に考えること、専心すること、チームと一緒に取り組むこと、勝ち負けを経験すること。加えて、健康と幸福、誠実さ、リスク、肯定的な考え方、忍耐、努力、競争力、競技分析、ロジスティックス、予算、自己管理といったものがあげられます。

スポーツから学べることは本当にたくさんあります。身体面の成長がすべてではなく、精神面で得られる成長が、人生を通した成長の中でとても重要であることにも気づかせてくれます。

その中でも特に「誠実であること」は、何より大切なものであると私は思います。「誠実さ(honesty)」とは、自分がどのような人間であるかということ、そして自分の信念や価値観を基にして、ベストを尽くすことを意味します。周りの人が言うから何らかの行動や発言をするのではなく、自分のために行う。それが自分に誠実であるということなのです。

スポーツで勝つということは、本当の意味でのスポーツの成果ではありません。結果というのは自分でコントロールできないもので、勝とうと思っていつでも勝てるものではありません。スポーツの成果とは、表面にあるものではなく、もっと内面にあります。つまり、コントロールできるのは、自らの行動だけです。自分ができる最善を尽くすことが成果なのです。それによって勝利を得られるのであれば素晴らしいことですが、勝利は評価の指標のひとつに過ぎません。

時には、国の代表になるようなアスリートが、結果を出すためにドーピングに手を染めることもあります。多くの場合、勝つことそのものよりも、勝つことで得られるお金を目的として、ドーピングによる不正を働くのです。勝ってお金をより得たいから、不正をする人たちがいる。これが私たちの抱える問題です。心が健全であれば、自分の体内に薬物を摂り入れたいとは思いません。お金や体の問題よりも、いかに健全な心を保てるかどうかが重要な鍵になると思います。

True Moment in Sport

バーバラ・ケンドル

© Barbara Kendall

25
1992

自分の考え方の舵を取る

私の出身国であるニュージーランドは、とても自由で、どんなに新しいことでも挑戦できる風土があり、意見をどんどん発することが許される国です。私は、この国が持つ、型にはまった人生を送らなくても良いような文化の中で生まれ育ち、母からも常に「自分に正直に、情熱をもって夢を追いかけなさい」と言われてきました。
私はもともと海に出ることが大好きでしたし、10代の頃にはスポーツで世界を旅して回りたいという夢がありました。セーリングは毎日、波や風などのコンディションが変わるので、いつも違う体験ができて、常に学びがあるのです。そして、何よりセーリングの自由さが大好きでした。

その後、私はニュージーランド代表として5大会連続でオリンピックに出場しましたが、大きな経験となったのは、金メダルを獲得した1992年バルセロナ大会です。大会直前に手首を骨折して、出場を逃しそうになりました。けれど、もしかしたら命を落とす可能性だってあったし、選手生命が絶たれる可能性だってあったのに、生きてまたセーリングができる自分がいる。それだけでとても幸運なことなのだと、心から思うことができました。すると、自分が今持っているものに深く感謝をするようになり、気持ちも明るくなって、エネルギーが沸いてきたのです。自分の感情や考え方をうまく舵取りし、自身でコントロールすることが、とても大事です。考え方次第で、自分が取り組んでいることに対して自信を持ち、前向きになれますし、物事や人生の価値をより正しく認め、より感謝できるようになるのです。

また、オリンピックからは、挑戦することを学びました。4年に1回、あらゆる面で自分を最高の状態に持っていくというのは、大きな挑戦です。4年ごとに違うケーキを焼くようなもので、生地を膨らませるために必要な材料がそれぞれ違うのです。この挑戦に夢中になって、自分がもう1回その挑戦ができるか試してみたくなりました。毎回、肉体的に4年分変化するのと同時に、4年分だけ賢くもなっています。そして、子どもができ生活環境が変わるなかでも、自分をピークに持っていけるか、4年ごとに自分にとってベストな状態になれるか、オリンピックの度に大きな挑戦でした。

バーバラ・ケンドル

© Yuki Saito

適材適所の組織が、スポーツの土壌を育くむ

私はアスリートを引退してから、大学で社会福祉を学んで学位を取得しました。大学では、自分という人間を見つめながら、自分のやりたいことを実現できる方法を模索し、マネージャーやリーダーとしてそれを実行することに努めました。また、国内オリンピック委員会連合(ANOC)アスリート委員会委員長、国際サーフィン連盟(ISA)副会長、国際オリンピック委員会(IOC)女性とスポーツ委員会委員、2018年10月に行われたブエノスアイレスユースオリンピックニュージーランド選手団団長などの役職を務め、一方では娘たちの水球チームのマネージャーをしています。

そうした経験から感じることは、まず「適材適所」の重要性です。特に、リーダーになる人がきちんと正しい目標、志を持って就任しているのかということが、すごく大事な部分です。リーダーシップを執る立場には、その立場に就くだけの正当な理由がある人が就くべきだということです。グローバルなレベルではこれが最大の問題です。リーダーである人たちは、しばしば政治的なことや権力に惑わされ、自分たちはスポーツや若い世代のためにより良い仕事をするためにその立場にいるのだということを忘れてしまいがちです。

たとえば彼らの多くが、肩書きをいったん脇に置いて地元の学校に行き、スポーツチームの監督をしてみるのも良いと思います。スポーツを通して子どもたちが成長していく様子を見守ることによって、自分たちが得られる喜びを思い出すでしょう。そして、そのやりがいは、グローバルリーダーとして頂点に立つことと同じか、もしかしたらそれ以上に大きなものとなるかもしれません。私は、世界を変えたければローカルなことから始めるべきであり、そのローカルな変化・変革が、いずれグローバルなレベルまで波及していくという信念を持っています。

バーバラ・ケンドル

© Yuki Saito

53
2020

アスリートの権利を守れるプラットフォームを

グローバルとローカルの両方のレベルでスポーツに携わっている中で感じることは、アスリートの権利を守ることの重要性です。アスリートたちは、組織や体制の中では発言力が持てなくなるのです。つまり、発言力があり、なおかつ組織が決めたことに賛同しないアスリートは、体制から除外されてしまい、アスリートとしての生命が終わってしまうからです。

また、私も現役時代、アスリートの立場が悪いと感じることがあったので、アスリートとしてその問題に対する意見を反映するためにニュージーランド・オリンピック委員会のアスリート委員になり、発言する機会をもってきました。アスリートたちが、意見を聞いてもらえる場所で実際に発言力を持ち、意見を聞かれても安心して発言できるような基盤を作ることは、とても重要です。彼らがアスリートとしての権利を持っていると感じられるようなプラットフォームを提供できるよう、組織内の文化や体制を変えるには、コーチ、そして組織のリーダーたちが実際に変わることができるかどうかが要になります。

そして、もう一つ大切にしたいのが、自然環境です。とくに私の競技の場合はそうなのですが、アスリートたちは自分の経験を通して、海の環境を守ることがいかに重要かを理解するようになります。きれいな海、きれいな空気、スポーツや海水浴ができる汚染のない海水は、本当に大切なものです。海は大きな遊び場なのですから。海の環境問題は、次世代のアスリートにとって、本当に重要な課題です。

Truth in Me

バーバラ・ケンドル

© Yuki Saito

人生とは、自分を探す旅

「誠実であることの大切さ」。スポーツを通じて得たこの学びは、現在私が携わっているビジネスにおいてもまったく変わりません。私は、常に誠実に接してくれる人たちと仕事をしたいと思っています。また、娘たちにも、相手への気遣いや、正直で品格を保つことが非常に重要であること、何をするにも公正にルールを守って誠実に行うことを心から大事にしてほしいと考え、それを教えています。

また、今の時代、ソーシャルメディアがすごく盛んで、子どもたちは“FOMO(Fear of missing out)”=何かを逃すことへの恐怖、つまり自分だけが機会や恩恵などを逃しているような恐怖にとらわれています。若い人たちは皆、ソーシャルメディアに本当にべったりです。ですから、他人が何を持っているかではなく、自分たちが持っているものの良さを認めることが、これまで以上に今、重要になっているのです。

まず、自分が持っているもの、自分が取り組んでいることを愛してほしい。誰であれ、好きなことを追求し続けている人であれば、私はその人の大のサポーターです。ビジネスであれスポーツであれ、何でも好きなことをやっている人は幸せだからです。自分を愛し、自分に嘘をつかずにベストを尽くすことで、人は幸福を感じ、本当の自分でいられます。

そして、本当の自分に誠実であるためには、まず自分がどんな人間であるかを知らなければならない。私は、生まれてからこの世を去るまで、人生とは自分を探す旅、自分が何者であるかを発見するための旅だと思っています。

そしてスポーツの意義もまた、自分について学ぶこと - 自分自身の強みを伸ばすことにあります。勝つことではなく、そこで得た学び、そしてあなたの人生を豊かにする経験こそが、常に大切なのです。

PLAY TRUE2020
Athlete Profile

Barbara Kendall 国籍

生年月日
1967年8月30日生まれ
国籍
ニュージーランド
種目
セーリング(レヒナー)

1992バルセロナでオリンピック大会に出場し、金メダルを獲得。1996アトランタで銀、2000シドニーで銅メダル。2004アテネ(5位)、2008北京(6位)にも出場し、41歳で現役を引退。

引退後は、国際オリンピック委員会(IOC)委員(2005~2008、2010~2016)、WADAアスリート委員を4年間、IOCアスリート委員を12年間務めるなどスポーツ界における国際的な要職を歴任。現在は、国内オリンピック委員会連合(ANOC)アスリート委員会委員長、国際サーフィン連盟(ISA)副会長、ブエノスアイレスユースオリンピックニュージーランド選手団団長などに就くかたわら、娘の所属する水球チームのマネージャーを務める。