PLAY TRUE 2020

PLAY TRUE 2020

© JADA

Truth in Sport

パートナーシップなくして成功なし

ひたむきな努力は人に成功をもたらしてくれますが、「成功」という言葉が持つ意味は、人によって違います。これが、私がスポーツによって得た学びです。

私にとって成功という意味はいくつかあります。ドレサージュの競技で勝ちメダルを取る、ということも成功だと言えます。むしろ、普段から馬とコミュニケーションを重ね、馬と一緒に何かを乗り越え、お互いを近くに感じて理解し合えたと思える瞬間の方が、私にとってはとても大きな成功だと思っています。自分の怖さに打ち克ち、勇気を出して乗り越えていくこともまた大きな成功であり、私にはとても意味があります。目標に向かうためにどれだけ大変な努力が必要であっても、自分が本当に好きなことであれば、それを辛いとは感じないということもまた、私はスポーツを通じて学びました。

馬術が他の競技と違うのは、何より馬というパートナーがいること。そして、そのパートナーである馬が100%騎手を信頼していなければならないということです。お互いに信頼し、完全に理解し合い、強いパートナーシップを築けるようになるまでには、毎日のコミュニケーションが不可欠で、かなりの年月を要します。

厩舎の中での毎日の作業はまさにハードワークですが、喜びのほうが大きい。毎日の掃除と餌やり、ブラッシング、体温測定などの馬の体調管理。やることはいくらでもあり、厩舎では毎日少なくとも3時間以上、馬たちのために働いています。さらに、馬たちを牧草地に連れていって走らせたり、他の馬と交流をさせたり、もちろん練習も繰り返しします。馬が好きじゃないと絶対にできないのが馬術競技です。

私が大切にしているのは、私と私の馬のために、常にベストを尽くすということ。試合に出るまでは毎日、練習と世話の積み重ねです。馬が元気か、安心してリラックスしているか、そして私を100%信頼してくれているかどうかなど、すべてのパズルのピースがぴったりはまった時に、達成感を覚えます。馬をパートナーとして、一緒にダンスをしているような気分になるのです。もしパズルのどれかが欠けていたら、試合に勝ったところで「成功」したとは言えません。

True Moment in Sport

フェリシア・グリメンハグ

© Felicia Grimmenhag

17
2011

自分に何ができるか、挑戦し続ける

私が命を落とす寸前の大事故に遭い両足を失った時、誰もが「きっと学校に戻るまでに何年もかかるだろう」と言いました。が、私は事故の10週間後にはもう学校に戻っていました。乗馬も同じ。「馬に乗りたい」「パラアスリートになりたい」と人に話しても、怪訝な顔をされるばかりでした。そういう顔をされたり、否定的なことを言われたりすると、正直なところ腹が立ってしまいました。だって、何ができるか何ができないかは、まず挑戦して自分で決めたいと思っていましたから。

パラ馬術を始めたきっかけは、入院中に見たドイツ出身のパラ馬術アスリートのアンジェリカ・トラバート(Angelica Trabert)が乗馬をしている動画でした。アンジェリカは私と同じように両足がなく、彼女が大きな馬術の試合に出て馬に乗っている姿を見たことは何よりの刺激となり、「私もいつかきっとできる!」という期待を持ちました。これからどういう道を歩んだらいいのか、という道しるべをもらった気がして、「目標ができた!」と思いました。

そして、スウェーデンのパラ馬術チームを見学し、彼らの技術や馬自体がとても美しくて素晴らしく、大きなインスピレーションを得てワクワクしたことも覚えています。見ているうちに、彼らがどのように馬術をするのかがよく分かり、自分が馬に乗るにはもっと強い体が必要だと気づきました。そして『私にもできるかも』とやる気がもっと湧き、挑戦することを決めたのです。

できることなら私も、アンジェリカのように他の人に刺激を与えられる人になりたい。人の可能性に限界はなく、「何でもできるのだ」ということを分かってもらいたいし、それを実際に私の姿で見てもらいたい。障がいがありながら馬に乗る人だけでなく、乗馬をしている・いないに関わらず、どんな人たちにも影響を与えられる存在でありたいと思っています。

もう一つ、私には大切なキーフレーズがあります。子どもの頃から私の両親が必ず私に言っていた、「さぁ、これをあなたはどうやって解決する?」という言葉です。今でもこれは私のモットー。私は、この両親の言葉とともに成長してきました。何かうまくいかないことが生じた時に、まずは「どうやってこれを解決するの?」と自分に問いかける。この言葉を常に頭に置いていると、まずは自分に責任を持つということが自然と身についてきます。そして失敗に目を向けるのではなく、そこからの可能性に目を向けることができるようになります。

フェリシア・グリメンハグ

© JADA

垣根を超えて可能性を拡げる

2017年は刺激的な1年でした。馬のTarot(タロー)が私のもとにやってきて国際大会に出場し始め、ヨーテボリのヨーロッパ選手権で決勝戦に出場。正にエレベーターのようにあっという間でした。無名の私が注目を集めるようになったのは、自国開催のヨーロッパ選手権での活躍が大きかったと思います。それでたくさんのメディアに出演して、講演会で多くの人に話を聞いてもらうチャンスももらいました。それがきっかけでスポンサーシップを得るなど、可能性を拡げることができました。

今では自分の会社を運営し、さまざまなところで講演会を行なっています。事故からどのようにして立ち直ったか、どうやってパラ馬術のアスリートになったのか、また、辛い時にどのようにモチベーションを保って乗り越えていくのか、自分の目標を持つにはどうしたらよいか、といったことについて話をしています。

自分への挑戦の一つとして、一般の部の馬術大会にも出場しています。一般に「普通とされている人」には特に難しくないプログラムでも、障がいがある人たちにはそれがとても難しかったりします。でも、それをやり遂げた時に、誰でもできるんだということを「普通の人」たちに見てもらえますし、技術も向上して自信にもつながります。

そもそも馬術は平等性の高いスポーツで、他の競技に比べ、パラ競技とオリンピック競技の垣根が低いように感じます。パラアスリートと健常なアスリートが交流をもち、大会でも全く同じ場所で競技をしますし、性別に関係なく同じプログラムをこなします。それはとても素晴らしいことですし、多くの人に可能性を与えてくれるということでもあると思います。

私は4期生(2019~2021年)として、スウェーデン・パラリンピック委員会が主催するパラアスリート養成アカデミー「Elitidrottsskolan」に参加しています。このアカデミーの目的は、パラアスリートがさまざまなアスリートと一緒に学び、自立したパラアスリートとなって生計を立てていけるようにすることです。

3年間のカリキュラムの中で、アカデミー生は数週間に1回、週末に集まり、トレーニング計画、スポーツ心理学、食事と栄養、プレゼンテーション技術、メディアやスポンサー対応、アンチ・ドーピング、倫理といったことを学んでいます。要するにトップのアスリートになるために何をすればよいのか、多角的な観点で学ぶことができます。このアカデミーで同じ年代のアスリートたちと交流を深められ、情報を交換することができるのは貴重だと思っています。

スウェーデンのパラスポーツは、やはりまだまだ盛んというほどではないと私は思っています。パラスポーツの認知度を向上させたいという気持ちから、私は多くの取材を積極的に受けるようにしています。パラアスリートはそれぞれさまざまな時の刻み方をし、とても興味深い物語を持ち、大きな困難を乗り越えてきている。だからこそ、多くの人に「人はこんなこともできるんだ!」と様々な形で示すことができるのです。パラスポーツがより盛んになるため、私にできることを続けていきたいと思っています。

フェリシア・グリメンハグ

© JADA

26
2020

社会にインスピレーションを与える

私にとってスポーツは、事故から人生の再起を歩むためのツールでした。馬に乗ることで、騎手としても人としても健全な精神を保つことができ、自信を持つことができます。だから、私と同じように、多くの人がスポーツをすることで心から健全になってほしい。これが、スポーツの未来に最も期待していることです。

障がいを持つ人たちは、もっと外に出て体を動かすことで、自身の可能性を見つけられると思いますし、個人としてもコミュニティの中で強い自信を持つことができるようになると思います。また、パラアスリートの姿は、障がいを持つ人でも全てのことに可能性を持っているということを、多くの人たちにも示して影響を与えられるでしょう。実際にスポーツをしなくても、観戦するだけでも何かしらのインスピレーションを得ることができる。多くの人が影響を受けてスポーツをしたり・みたりするために外へ出るようになることで、人が孤独になることも防げると思うのです。すべての人がスポーツと何かしらの関係を持ち、幸せになれたらいいなと願っています。

私自身としては、将来、スポーツ界や社会を引っ張っていくような存在になりたいと思っています。パラアスリートたちに、より積極的に、勇気を持ってスポーツに打ち込めるようにインスピレーションを与えたい。そして、パラ馬術を多くの人に知ってもらい、パラ馬術が私の人生にどのような喜びと生活の質(quality of life)の向上を与えてくれたのかをもっと伝えていきたい。自分の持つ知識や経験を、他の人を助けるために使えることは、とても素晴らしいことだと思うのです!

アスリートとしては、パラリンピックにも出場したいし、常に次の目標を見つけて努力していきたい。一般の馬術の大会にも参加し続け、今より良い成績を残せたらいいなとも思っています。何より、「馬術師」として生涯を過ごしていきたい。運が良かったら、馬術は一生できますからね。それも楽しそうでしょう?

Truth in Me

フェリシア・グリメンハグ

© JADA

限界点を決めず、常に上を目指し挑戦し続ける

私が事故で両足を失った時、多くの人が私に「何ができて何ができない」かということを勝手に決めつけてきました。けれど、私からすると、そんなことはまったく無意味なことでした。

子どもの頃、私にとっていちばんの理想像は『長くつ下のピッピ』のピッピでした。ピッピは子どもながら自立していて勇気があり、なんでも自分の力でやり遂げようと挑戦します。私はいつも、自分がちょっと彼女に似ているなと思ってきました。だから、事故の後でもピッピのように、どんな些細なことでも自分でできるのかどうかをまず知るため、進んで挑戦しました。厩舎でも、必要な場合は他の人に助けを求めましたが、まずは自分一人でそれができるのか、挑戦してみないと気が済みませんでした。

私は、誰かに頼ることに慣れたくない。自立して、なんでも自分でできるようにしていたい。結局のところ、人は他の誰かに対して「あなたには何ができて、何ができない」などと決めつけることはできないし、それをするべきではないと思うのです。

常に自分の限界点を上へと持っていき、それより上にさらに挑戦していくことで、人は自分により強い自信を持てるようになります。それは、人生においても同じこと。スポーツを通して私は、より強い意志と決意を持つことができるようになったと思っています。

私は、事故で命を落としかけたことで、人生に対してとても感謝をするようになりましたし、「生」があることで、たくさんの可能性を手にすることができました。トップレベルのパラアスリートとして活躍することができて、しかも私自身の存在が他の人にインスピレーションを与えているのです。人生をもっと意味があるものとして理解し、ささやかなことでさえも感謝し、今までと違ったプライオリティーを持つようになったと思います。

障がいを持った人を見ると、「かわいそう」という気持ちが湧く人が多くいるようですが、実は障がいを持つ人たちの人生にはたくさんの喜びがあるのです。私なんて、障がいを持っていたって何でもできるし、些細なことなんて全然気にせず、楽しく生きています!それを多くの人に広く伝えていきたいと思います。

PLAY TRUE2020
Athlete Profile

Felicia Grimmenhag 国籍

生年月日
1994年3月24日生まれ
国籍
スウェーデン王国
種目
パラ馬術

2011年17歳の夏休みに交通事故により両足を切断。
入院中にパラ馬術アスリートAngelica Trabertの演技に触発され、事故の10週間後に幼少期に楽しんでいた乗馬を再開。

2014年本格的にパラ馬術競技を開始。
2017年にスウェーデン・ヨーテボリで開催されたヨーロッパチャンピオンシップで決勝戦に出場。

2019年からはスウェーデン・パラリンピック委員会が主催するパラアスリート養成アカデミー「Elitidrottsskolan」に参加。競技生活に加え、自身の経験を伝える講演会なども行っている。