PLAY TRUE 2020

PLAY TRUE 2020

© Yuki Saito

Truth in Sport

ハードワークを厭わず、プロセスを楽しむ

東京2020オリンピック競技大会は、スポーツクライミングが正式種目となって初めてのオリンピックです。その記念すべき大会への出場が決まり、とても嬉しく感じる反面、正直なところ、まだ実感がありません。この喜びをかみしめるまでには、もう少し時間がかかるかもしれません。もちろん、出場が決まったことは真っ先にオーストリアにいる母に伝えましたが、両親共にとても喜んでくれています。自分たちの競技がオリンピック種目となったことでオリンピックに出場できることは、本当に素晴らしいことだと思います。

東京オリンピックでのスポーツクライミングは、「ボルダリング」「リード」「スピード」の複合競技となります。私はずっとオリンピック出場を夢見てきたというわけではありません。ただ、リードとボルダリングについては自信がありましたし、素晴らしい国際イベントに参加できる貴重な機会なので、挑戦してみない手はないと思っていました。

スポーツクライミングは、もともと純粋に「楽しい」という気持ちから始めました。その後「競技」として真剣に取り組むようになってからは、他者や周囲からではなく、あえて自分自身にプレッシャーを課すようにしています。特に2018年世界選手権で優勝してからは、もう一度表彰台に上がるため、自分自身を厳しく追い込んできました。

高いレベルでスポーツクライミングをすると、動きに簡単なことは何一つありません。傍から見ると簡単そうに見えるかもしれませんが、毎回違う一つひとつの動きを考えながら全力で繰り出しています。これまで日々練習を積み重ねてきた中で、本当に手にしたいものを得るためには、情熱を持ち、自分自身を厳しく鍛錬しなければならないと学びました。ハードワークを怠り、そのプロセスを楽しめない人は、望んだものを手に入れることはできないでしょう。

True Moment in Sport

ジェシカ・ピルツ

© Yuki Saito

9
2005

クライミングカルチャーを通して自身を高める

スポーツクライミングとの出会いは9歳の時です。故郷のオーストリア・ハークのサマーキャンプでさまざまなスポーツにチャレンジする機会があり、その時に初めてスポーツクライミングを体験しました。登っていく感覚がとても楽しくて、笑いながら壁を登っていました。これこそが私が挑戦すべきスポーツだと直感したのです。それまで練習していた乗馬やテニスなどを辞め、スポーツクライミングのクラブに入り練習に専念するようになりました。

最初のうちは、トレーニングというより趣味でしたし、純粋に楽しかった。でも、クラブに通い始めてから1カ月くらいで、自分からコーチに「競技会に出てみたい」と申し出ました。そして、ナショナルチームに入り国際大会にも出場するようになってからは、ナショナルコーチと共にトレーニングプランを立て、より真剣にクライミングに向き合うようになりました。

オーストリアのクライミングチームのメンバーになって初めて自然の岩山に登り、それ以来毎年のようにロッククライミングをしています。最初の頃は室内で登るプラスチックの壁のほうが好きだったのですが、次第に自然の中でのクライミングに面白さを感じるようになりました。友だちとスペインを旅行し、初めてプライベートで岩山を登ったことは、本当に特別な経験となりました。おかげで今では岩山もプラスチックの壁もどちらも好きです。

クライミングのコミュニティーはとてもフレンドリーで、お互いを助け合うカルチャーです。アスリート同士で技術などについて相談をし合うこともありますし、一緒にトレーニングやロッククライミングをしたりもします。そういうところは他の競技と大きく異なる点かもしれません。だからこそ私たちは、同じパッションで、目標に向かっていけるのだと思います。

ジェシカ・ピルツ

© Ryo Kubota

物の見方や考え方を広げ、自分を信じる

競技の傍ら、インスブルックの大学で1年半ほどスポーツサイエンスを学びました。トレーニングプランの立て方、スケジュールの組み方など、スポーツに関するすべてのプロセスについてもっと深く知りたいと思ったからです。遠征などで忙しくなり、授業に出られないことが多くなったため、競技に専念することにしましたが、「このトレーニングは何のために行うのか」「なぜ改善に取り組む必要があるのか」といったトレーニングプランやコーチの意見を理論的に理解することができるようになり、大きな収穫があったと思っています。

トレーニングは週に5日、コーチと共にプランを立て、綿密にメニューを調整して行っています。トレーニングは同じことを繰り返すのではなく、毎回新しい動きを取り入れ、身体能力や技術の向上を図っています。

2018年からスポーツクライミングの公式ルールが改定となり、スタイルがガラッと変わりました。アスリートにはよりダイナミックさが求められるようになっています。その新しいクライミングスタイルに適応するため、私だけでなくどのアスリートも、新たに学び、トレーニングを積む必要があります。

過去の経験から私は、トレーニングプランを忠実に実行することが、自らのモチベーションを高める上で非常に大切だと思っています。また、物の見方や考え方が競技会ではカギとなります。自分を信じる力がなければ、最高のパフォーマンスを発揮することはできないのです。

ジェシカ・ピルツ

© Yuki Saito

24
2020

次世代クライマーたちのロールモデルを目指す

私が子どもの頃から、オーストリアにはワールドクラスのクライマーがいました。その中でも、世界チャンピオンとなった女性クライマー、アンジェラ・アイターが私の憧れで、いつも彼女のようにうまく登りたいと思っていました。彼女のパワフルでスピーディなクライミングスタイルが大好きで、大きなインスピレーションを与えてくれました。彼女が私のロールモデルであったように、私自身が次世代のクライマーたちのお手本となり、私のようになりたいと思ってくれる子どもたちがいたら、こんなうれしいことはありません。

スポーツクライミングは、みんなのスポーツ。男女全く同じ条件で開催される競技であり、真の意味で男女平等。男女どちらかしか参加しない大会はありませんし、賞金も男女同額です。パワーという点で登り方が違うかもしれませんが、タイムはほぼ変わりません。これほど公平な競技は他にはあまりないと思います。

また、パラクライミングでは片腕、または片足しかないクライマーもいます。もちろん、目が見えなくてもクライミングできます。その壁を登る姿は本当にアグレッシブでクールです。老若男女、健常者も障がい者も、クライミングはみんなのスポーツだと思います。

オーストリアでも、ボルダリング施設があちこちにできて、大勢の人がクライミングに参加するようになりました。私の練習拠点であるインスブルックにも、とても大きなジムがあります。生徒の数も多く、高齢者から若い人、子どもまで幅広い層が一緒にクライミングをしています。みんなが一つの施設でクライミングを一緒に楽しめるのは、とても素晴らしいことです。クライミングというスポーツには過酷な面もありますが、一人で黙々と取り組むというのではなく、仲間と一緒にフレンドリーな雰囲気の中でチャレンジすることができるのです。

私も将来はぜひ、このような雰囲気や環境にもっと多くの人たちが参加できるようサポートしていきたいと思っています。

Truth in Me

ジェシカ・ピルツ

© Yuki Saito

労せずして得られるものなどない

私にとってスポーツとは、心と体のバランスを取る、生活の基本となるもの。悩み事がある時でも、公園を走ったりジムで運動したりすれば、気分が変わります。

一方でスポーツは私に、人生において労せずして得られるものなど何もないこと、辛抱強くあることがとても重要であることを、教えてくれました。私は競技やトレーニングが好きで、目標に向かって進むといったプロセスも楽しんでいますが、楽しみながらも自分に厳しくあり続け、辛抱強く、さらに上を目指していきたいと思っています。

また、こうした学びを与えてくれたスポーツという世界に、これからもずっと携わっていきたいと願っています。今は、多くの人たちにスポーツクライミングという競技や、クライマーとしての私の生活をもっと知ってもらうため、競技会やトレーニングの様子などを積極的にソーシャルメディアへ投稿しています。これを見て、よりクライミングに親しんでくれるとうれしいですね。

競技生活を終えたら、いずれはクライミングのコーチやルートセッターになることに興味があります。どのような道を選ぶかはまだわかりません。でも、クライミングは私のパッションそのものです。

PLAY TRUE2020
Athlete Profile

Jessica Pilz 国籍

生年月日
1996年11月22日生まれ
国籍
オーストリア共和国
種目
スポーツクライミング

9歳でスポーツクライミングを始める。
わずか1か月で地元の大会に出場。2010年にユースの国際大会に出場、2014年にはワールドカップに初出場する。

得意種目はリード。2017年のワールドカップで年間4位、翌2018年は年間2位。同年の世界選手権ではリードで優勝を果たした。

2019年8月東京・八王子で開催された世界選手権で、東京2020オリンピック競技大会の出場権を獲得。